絵心「えごころ」がないと思っている方へ

牡丹園や菖蒲園などで写生をしていると、花を見に来た女性たちが
「絵が描ける人はいいわね。私なんか絵心がないから」
と言いながら通り過ぎてゆきます。

「絵心」とはいったい何でしょうか。
私もその言葉が何を意味するのか正確にはわからないのですが、
広辞苑を引くと
〔絵をかく心得。絵を解する趣味。「―がある」〕
〔絵をかきたい気分。「―が動く」〕
と説明されています。

写生している私の後ろを通りすぎる女性はおそらく、
「描いてみたいけれどうまく描けないから」
というつもりで言ったのでしょう。
つまり広辞苑の説明を借りれば「絵を描く心得がないから」ということですね。

でも私は、絵心というのは後者、
「絵を描きたい気分」
のほうがより則しているように思います。

絵画を鑑賞した経験がまったくない人はいないでしょう。
絵を観たときに心を動かされたことがあれば、
なにかのきっかけで「絵を描いてみたい」と思うこともあったでしょう。
そういったときに何も考えず絵筆を執れればよいのでしょうが、多くの方はそこで躊躇してしまうのでしょうね。
子供の頃は屈託なくのびのびと紙にクレヨンを気持ちよく滑らせていたはずですが、
いつからか自分は絵が苦手とか下手だからとかいった気持ちが芽生えてしまったのかもしれません。

描くことに全く関心がないならば仕方ないことですが、少しでも描いてみたいと思う気持ちがあるならば
その気持ちを解放せずに押し殺してしまうのは残念なことです。

好みに合った画材を用紙の上に滑らせてゆくときの描き心地の良さ、
高価な美しい絵の具を塗るときのドキドキする気持ちや喜び。
落書きだっていいじゃないですか。抽象画になったっていいじゃありませんか。

実物とそっくりに描けなくとも、美しい画材を使ってみたいという欲求が芽生えたならば、
まずはその画材を用紙の上に走らせて、心地よさを感じてみませんか。

絵を描いてみたいと思う気持ちさえ芽生えたならば、それは絵心です。

こちらのコラム「絵はじょうずに描けなくてよい」もご覧ください。