絵ができたら落款(らっかん)

「落款」は、西洋画などで用いられる「サイン」のようなもので、
日本画ができ上がったときに作者の証しとして画面に記すものです。
一般的には筆書きの署名と赤い印影が組み合わされて、画面の片隅に入れられています。

絵は自由なものですから、日本画だからといって落款を入れなければならないわけではありませんし、
その形式も厳密な決まりがあるわけではありません。
が、もし落款を入れるならば作品の邪魔にならないような入れ方をするべきでしょうね。
署名の色は作品に対してあまり派手な色でなく、黄土、金泥、あるいは墨といった無難な色が使われることが多く、
それもべったり濃く書かずにうまく調子を付けるようにすると観賞の邪魔になりません。
印には赤い色の印泥(朱肉ではありません)が使われることが多いですが、
製品によっていくつかの色合いが用意されています。
ただし印泥は捺した後に余分な油分を取り去っておかないと後年油がにじみ出してくることがありますので、
私は作品上に捺す印には印泥でなく赤い絵の具を使うようにしています。

また、落款を入れるときには画面上での絵の動きを妨げないよう、
絵柄に左右方向の流れがある場合はその流れの「先」でなく「元」のほうに入れます。
画面に空間が開いているからといってその場所に入れるわけではないのです。

絵の流れの説明

筆書きする署名は、雅号(ペンネームのようなもの)を持っていればそれを記しますし、
本名を入れても良いのです。いずれにしても姓でなく名の方を入れることが一般的です。
印も、多くの場合は名の文字をハンコに彫って捺しますが、
自分の名前と関係ない好みの文字を選んだり、極端な場合文字でなく何かの絵柄を印にしていることもあります。
そういう遊び心もあると楽しいですね。

印を彫る「篆刻(てんこく)」は案外簡単にできるので、私も自分で彫ることがあります。
コツさえつかめばさほど時間もかからず、天然石の印材をパリパリと彫り進めるのは心地よいものです。

篆刻の実際はこちらのコラムでご覧いただけます。

なお専門家の作品には落款とは別に、画題と署名・印を捺した「シール」という紙を額の裏に貼りますが、
アマチュアの方でもそういったことを記しておくと、のちのちまで作品の由来が伝わり、
ご家族にとっては大きな宝物になるのではないでしょうか。
貼るのが面倒であればパネルの裏にでも直接書きこんでも構いません。
本当は硯で磨った墨(墨汁ではありません)で書くと驚くほど長い年月文字が残るのですが、
そこまでせずともマジックペンで書いても良いでしょうね。
制作年や制作にまつわるメモなどを記しておくのもさらに結構でしょう。