〜肩肘張らずに身近なモチーフを描く〜
院展のこと
院展は「日本美術院」が主催し、100年以上の長い歴史のある展覧会です。
毎年3月に「春の院展」、9月に「秋の院展」と、年2回の展覧会が開催され、
誰でも応募できる公募形式により、入選した作品は全国の巡回展で陳列してもらます。
昭和20年に始まった「春の院展」は当初試作展といった位置づけであったことから
今でもやはり本番は毎年秋に開催される「院展」、通称「秋の院展」なのです。
「ヒマラヤまで行かずとも、描くべきものは身近にいくらでもあるでしょう」
という師匠のひと言から、それならばと自分の乗っていたオートバイを描き、
教授たちから酷評されてもよいからという開き直った気持ちで大学院の卒業制作としました。
すると予想外にその作品が高い評価を受けて卒業したのでしたが、
その年の秋の院展では師の勧めもあり、同じ絵をあらためて描き直して応募することとなったのです。
秋の院展に初入選
春の院展に初入選したとはいえ、簡単に続けて入選できるほど院展は甘くありません。
春に描いた七竃とはまったく方向の違うテーマで挑戦することには大いに不安もあったはずです。
西日の当たるアパートでクーラーもなく、狭い部屋いっぱいに延べた150号の作品の上で
画面に汗を落としながら描いた、まさに魂を込めた作品が
「フレームナンバー MC18-1018856」秋の院展の初入選となったのでした。
今振り返ると、当時は院展への出品作にオートバイなど描く者はおらず、
斬新なテーマだったことが良かったのかもしれませんし、
春の院展の入選で感触を得た「気持ちの宿った絵」という体験が
入選・落選といった “結果” などどちらでもよいといった高揚感とともに作品に現れたのでしょう。
上野の東京都美術館で開催される院展の、9月1日の初日に会場へ入り、
自分の作品と相対した嬉しさは忘れられません。
気恥ずかしさもあって絵の真正面に立てず、少し離れた場所からちらちら見ていたことを覚えています。
この初入選の作品は現在、郷里の恩人の病院施設に展示していただいていますが、
今あらためて見てもその頃の気負い、気合いのようなものを作品から感じることができます。