これまでいくつかカルチャーセンターの日本画講師を担当してきましたが、
そのひとつに伊豆半島の下田市にある上原美術館の教室があります。
この教室を担当するまではほとんど伊豆を訪れたことがなく
学生時代に友人たちとバイクでツーリングした程度でした。
都市圏からずいぶん離れたところで教室を開いていると思われるでしょうが、
この美術館は創設当時から教育普及活動に力を入れており、
地元の美術活動に貢献すべく、水彩画や写経、仏像彫刻などのいくつかの種類の教室を運営しています。
上原美術館の特徴
美術館を作ったのは大手製薬メーカー大正製薬の創業者上原氏で、
周辺地域の皆さんや伊豆を訪れた人々に、落ち着いた雰囲気で名画を鑑賞してもらいたいという願いがあったようです。
展示されているのは超一流の名画ばかりで、セザンヌ、マティス、ルノワールといった
海外の巨匠はおろか、横山大観、小林古径、東山魁夷ら日本の有名画家の作品も多数観ることができます。
大都市圏の美術館でゴッホやセザンヌ、横山大観といった巨匠の作品を観るときには
混雑にまぎれて押されるように鑑賞するのが常ですが、
上原美術館ではそういった名画と静かに1対1で対面できる点が大きな特徴です。
日本画教室の講師を担当するようになったわけ
さて、そんな素敵な美術館でなぜ私が日本画教室を担当することになったかというと、
ある日突然自宅に電話がかかってきて、伊豆で日本画の講師をお願いしたいと言われたのです。
電話をくださったのは、当時美術館の学芸員を務めていたTさんでした。
美術館で新規に日本画教室を立ち上げるにあたって講師探しをしている中、
私のホームページに行き当たり(以前運用していたHPです)
作品や経歴、そこに掲載されていた日本画の描き方の解説を見て
この人物なら依頼できるのではないかと思ったそうなのです。
私は、今さら伊豆まで出向いて教室をおこなうことに気乗りがせず、断るつもりでTさんにお会いしたのですが、
「お願いできますね?」と身を乗り出された勢いに押されて、つい引き受けてしまったことが始まりでした。
奇しくもTさんは私の故郷に近い佐久の出身で、
そういった親近感とともに話を聞いているうちに私の心が動いたのかもしれません。
しかしそれ以上に、新規に立ち上げる教室を、学芸員の方のサポートを受けながら充実したものにしてゆくという仕事に
やりがいを感じたのだと思います。
新しく開講する教室に携われるというチャンスはなかなかありません。
たいがいは別の講師がおこなっていた教室を引き継いで受け持つケースが多いのですが、
それは想像以上にやりにくいもので、
前任講師の絵に対する考え方や教室の運営方法が、すでに教室全体をひとつのカラーに染めており、
もともと在籍していた受講者の方々は新たな講師のやり方になかなか馴染めないものなのです。
そういったわけで新しく教室を立ち上げる準備から関わらせていただき、
2001年4月の開講以来、今年(2024年)で24年目を迎えることとなりました。
振り返れば教室のために伊豆に通った回数は550回を超えます。
当初は、日本画の描き方を学ぶ場のない伊豆の皆さんのために、
得難い習得の機会を持っていただくといった気持ちだったのですが、
次第に、伊豆半島の文化発展に貢献したいという思いがふくらみ、
美術館に支援をいただきながらワークショップや子供たちへの教育普及活動にも協力するようになってきました。
さらに自分の画業においても伊豆でさまざまな画想やモチーフを得て作品にしてきました。
当サイトで私の作品「Works」の中の「伊豆」というタグを選択すると、
それらのいくつかを観ていただくことができます。
無料で受講できる日本画教室
最後に上原美術館の日本画教室についてご紹介しておきます。
この教室は美術館の公益事業としておこなっているため受講料が無料で、
受講する方は自らの画材と交通費のみ負担することで
絵を描く第一歩から始めて本格的な日本画が描けるまでを学ぶことができます。
年度末の3月には美術館の付属施設で作品展が開催され、
描いた日本画を一般の方々に観ていただく機会も設けられています。
多くの方々に受講のチャンスを得てもらいたいという趣旨から、
3年限りの年限、つまり3年で卒業ということになりますが、
その後も自主的なサークルであるOB会に参加すれば同じ卒業生の仲間と交流しながら制作を続けてゆくことができます。
下田市在住でなくとも現地まで通うことができれば受講は可能です。毎年新規受講者を募集していますので、
興味のある方は上原美術館のサイトで情報をご覧ください。
通常の教室とは別に単発の日本画ワークショップも開催することがあります。
2019年におこなわれたワークショップ「はじめての日本画体験」の様子を
当サイトに掲載しております。
多くの方々に日本画に関心を持っていただけるよう、ひいては日本の美術文化の継承に役立てるよう
私もまだまだ頑張ってゆこうと思っています。