難関といわれる院展の審査をクリアして入選したときの喜びはいかばかりでしょうか。
初心者にとって難易度が高すぎて入選は困難とさえ言われている院展は、
果たしてどのようにすればその壁を突破できるのでしょうか。
私の経験を踏まえて考察してみたいと思います。
この前編では応募規約を踏まえた留意点を記します。後編では制作にあたっての留意点を記します。
特に注記がない場合は春の院展と秋の院展とで共通の内容になります。
なお、院展についてまず知りたい方は以前のコラム
院展とは(前編)〜院展のしくみ〜
および
院展とは(後編)〜日本美術院の歴史〜
をご覧ください。
応募方法と資格
院展は「日本美術院」が主催する公募日本画展です。
公募というくらいですから、規約を遵守すれば誰でも応募でき、審査を通れば展示してもらえます。
作品が優れていれば受賞だって夢ではありません。
まずは日本美術院から応募要項を取り寄せて内容を確認することから始めましょう。
注意すべき規約
どのような公募展でも同様ですが、応募できるのは未発表の作品に限ります。
また院展の場合、定められた作品寸法の制限は額縁も含めたものでなければならないので、
あらかじめ額縁(仮縁)の外寸を寸法制限内で用意し、その仮縁のサイズに合わせてパネルを用意する必要があります。
サイズがオーバーしたり、あるいは画面にサインや落款が入っていると
規約違反として受け付けてもらえないことがあります。
範囲内でしたらどのようなサイズでも構わないのですが、皆ぎりぎりの最大寸で描いて出品してくるので、
あまりにも小さい作品は審査で見栄えがせず不利かもしれません。
ですので額縁もパネルも特注になります。これらに結構費用がかかるのです。
費用については後述いたします。
そして、マンション住まいの方などは作品の出し入れの都合で
1枚の大きなパネルで描けないという事情もあるかもしれません。
パネルを分割式にすることもやむを得ないでしょうが、画面に分割線が入るのはあまり気持ちのいいものではありません。
作品は1点に限らず複数点応募できますが、複数応募している作品は、
審査の前段階でひとり1点に絞る審査がおこなわれます。
搬入 〜業者に依頼するか自分で運ぶか〜
自分で搬入するなら、2日間ある搬入日のいずれかに搬入場所まで持ち込めばOKです。
秋の院展はサイズが大きいので大変ですが、
アルミバンといって荷台が箱形の荷室になっているトラックがレンタカーで用意されており便利です。
そうでなければ平台のトラックにオプションの幌を付けると良いでしょう。
厳重に梱包してブルーシートでくるみ、剥き出しでトラックの荷台にくくりつける人も中にはいますが、
雨が降ると心配でもありますし、その場合搬入場所で濡れたシートを外す際に作品に水滴がついたり、
周囲の作品に迷惑がかかったりしないようご注意。
かつて秋の院展の搬入のとき突然の夕立に見舞われ、
別の油彩画の公募展に搬入をおこなっていた作品が雨に打たれてびしょぬれになっていたことがありました。
自分の作品は事無きを得たのですが、もし日本画が雨に当たったら
その年は入選をあきらめなければならないところだったでしょう。
春の院展の作品ならばライトバン型の普通自動車やワンボックスカーに載るでしょう。
搬入にあたっては自分で運ばずに、搬入業者に委託して運んでもらう応募者も多いです。
その際は搬入業者とよく打ち合わせをして、作品を引き取りに来てもらう日程を決めなければなりません。
たいがいは搬入日の1〜2日前ということが多いです。
地方からの委託出品の場合は美術院の方の受け付け期限が早く設定されているので
へたをすると1週間近く前に作品を出さなければならないこともあるようです。
審査
搬入が締め切られた翌日はいよいよ審査です。丸1日かけて入選・落選が決定されます。
審査は想像以上に厳正・公平におこなわれ、美術院同人全員の出席で、挙手によって多数決で決められます。
いちどに数点が並べられ、1点ずつ順に「入選と思う方の挙手」「落選と思う方の挙手」を求め、
半数以上が挙がるといずれかに決定されます。
並べられたときに、隣に素晴らしい作品が来てしまうと不利になるので、
担当者は作品をシャッフルして並べるそうですが、それも時の運かもしれませんね。
搬入のときに早く受け付けした方が有利とか不利とかいうことは全くありません。
審査では入選の挙手、いわゆる〝青票〟を過半数得て入選が決まる作品は少なく、
〝赤票〟が半数に達せず落選しなかった作品が「保留」で残ります。
複数回の審査を経て、会場で陳列できる点数まで絞り込んだときに残った作品が入選と決まります。
審査が厳正であることは、キャリアを持った作家でも落選になることからもわかりますし、
初入選の作品が賞の候補になることもあるようです。
入選・落選に関しては、不公平な恣意的要素が入る余地は少ない・・・
というか、そのような操作をするほどの時間的な余裕はないようです。
私の師が話していたことですが、審査を受ける作品が入り口から入ってきたあたりで、
この作品に手を挙げようかという気持ちが決まっているそうです。
じっくり見ればどの作品も熱がこもっていて良い点が見えてくるのだが、
絵というものはぱっと目にした一瞬に受けた印象で良い・悪いがわかるものだとおっしゃっておられました。
同人になった方が初めて審査に参加したとき、
自分はこのような熾烈な審査をよくくぐり抜けてきたものだという感想を持つそうです。
さて、審査2日目は賞の審査です。
入選が決まった作品をもう一度全て見直して、受賞対象としての推薦票が一定数集まった作品が賞候補です。
賞候補の作品を対象として記入式で投票がおこなわれ、昼頃までには受賞作品が決まります。
賞の種類は、秋の院展ならば「日本美術院賞」が1〜2点、「奨励賞」が14〜15点、
春の院展では「春季展賞」が1〜2点、「奨励賞」が14〜15点、対象となります。
その他に「内閣総理大臣賞」と「文部科学大臣賞」も設けられていますが、
これらは同人が受賞対象となります。
審査の通知
入落や受賞の通知は、事務処理が終わったあとに日本美術院から郵便で送られてきますが、
東京の谷中にある日本美術院の掲示板や、作品の運送取り扱い店でも知ることができます。
展示
通常、秋の院展は上野の東京都美術館を本展として全国巡回し、春の院展は日本橋三越本店を皮切りに全国巡回します。
上野と三越では全ての入選作品、同人の作品が陳列されますが、
巡回展は会場や運送の制限があることから、入選作品の全てが展示されるわけではありません。
自身の居住地や出身地で開催がある場合は優遇されますが、それ以外の会場では陳列されるチャンスが少ないです。
どの巡回展に展示されるかは、東京展の会期終了頃に美術院から通知が来ます。
制作から搬入までの費用
さて、出品画の制作にあたってはどのくらい費用がかかるでしょうか。
人によって差があるのは当然ですが、秋の院展での例を示しますので参考にしてください。
春の院展ならばもっと安く済みます。
- パネル ・・・・ 30,000円〜
- 用紙 ・・・・・ 25,000円〜
- 仮縁 ・・・・・ 30,000円〜
- 搬入の運搬費用(往復の最低金額)・・・・ 15,000円〜
- 審査手数料 ・・・・・ 10,000円〜
- 絵の具や画材 ・・・・・ 人によってさまざま
このとおり、絵の具や画材を別にしても確実に10万円以上かかります。
2回目以降の出品では仮縁は再使用できますが、巡回展の間に傷がついたりすることもありますので、
数年で作り直す必要が出てくる場合もあります。
パネルも、作品を剥がせば再利用できますが、初入選の作品などは保存しておきたくなりますよね。
作品はパネルから剥がしてしまうと傷みやすくなるので、良い状態でとっておきたいならば
できるだけパネル張りのまま保管することをお勧めします。
後編では制作にあたっての留意点やコツを記します。
※ このコラムで書かれている情報は2021年現在のものです。
院展の規約などは随時改正されることがあるのでご了承ください。