絵の「見かた」を教えてください

絵の「見かた」を教えてください と尋ねてみたいですか?

意外なことに、美術館に足を運んだことのない方がたくさんおられます。
自分は絵がわからないから。あるいは絵を観てもつまらないから。
などと耳にします。

絵は理屈で観るものではありません

絵の見方というものがあるとしたら、それは頭で考えた理屈にすぎません。
展覧会や美術館では音声ガイドなるものが用意されていることがありますね。
確かに鑑賞の大きな助けになりますし、知的好奇心を満足させてくれるのは良いことだと思います。
けれども、それまで生きてきた人生経験のそれぞれ違う方々が、1枚の作品を観たときに同じ感想を持つはずはありません。
絵に対する説明をあまり求めすぎないよう、感じる心をフリーにしておくのも良いのではないでしょうか。

絵は色と形とマチエール(絵肌)でできています。説明文や動画で成り立ってはいませんね。
(そういう作品もありますが、それはさておき)
色と形とマチエールが私たちの視覚に刺激を与えて心に作用を及ぼすわけですから、理性でなく感性で感じてほしいのです。
そうでなければ抽象画なんて成立しません。抽象画を観るのが嫌いだったり苦手な方は、
おそらく美術作品を感覚でとらえることをしていないのでしょう。

全ての展覧会が素晴らしいわけではない

有名だから とか、値段が高いから でなく、観たとき瞬間的に感じる自分の好き嫌いで結構です。
はじめはすべての絵がつまらなく感じることがあるかもしれません。
でもそれは、たまたまつまらない展覧会に当たってしまったのかもしれないのです。
私も年間いくつもの展覧会を観に行きますが、「はずれ」の展覧会も多いものです。

海外の有名な画家の作品が鳴り物入りで日本にやってきたとき
目玉になる作品のほかは駄作・・・とは言わずとも傑作でない場合があります。
どんなに保険をかけていても、運送中の航空機が墜落したらその作品は二度と戻ってきません。
ですからほんとうに良い作品はなかなか海を渡ってこないのです。
絵描きだって人間です。傑作も描けば駄作も描きます。
絵描きの名前だけで「素晴らしいはず」と判断せず、
自分の感性を信じてください。

また、画集などの印刷を見て「つまらない」と判断せず、できるだけ実物の絵を観るようにしてほしいと思うのです。
絵描きは混色や重ね塗りを駆使して数え切れないほどの色数の中からベストな色を選択して描きますし、
私たち日本画家が使う「岩絵の具」には、宝石とまでは言えなくても貴石に近いような
美しい輝きを持つものが多いです。
でも印刷物はよっぽどのことがない限り、たった4色のインクに色分解されて印刷されます。
絵描きのようにひと色ひと色インクを選択して印刷したら、とてつもない費用がかかってしまいますから・・・
展覧会を観て感動して、買って帰った図録に掲載されている作品に
がっかりした経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
絵描きが心血を注いだ努力が、印刷で伝わるはずのないことがおわかりでしょう。
まして、スマホやパソコンの小さな画面で観る絵画については言わずもがなです。
AIが描いた絵画うんぬんにしても、AIが実際の絵の具を用いて描くようになるならば話は別かもしれませんが、
少なくともディスプレイの画面の中でしか勝負していないのなら、
まだまだ人間に一日の、いや百日の長があるでしょう。

とはいえ「絵の見かた」は・・・

展覧会場に入ったら列に並んで順番に観るのでなく、
その部屋全体をざっと見渡して、自分がいちばん心を魅かれた作品の前に向かってください。
順番を逸脱したからといって咎められることはまずありません。
そして、最後まで見終わって可能であれば、最初に戻って早足で作品を流し見してみたらどうでしょうか。
同じ作品に魅かれるかもしれませんし、作品全て見終わった「眼」が、新たな視点を持っているかもしれません。
そんなことを繰り返しながらいくつかの展覧会を観ていると、
そのうちご自分の好みがはっきり見えてきたり、それまでは興味を持たなかった種類の作品に関心が移ってゆくこともあります。

良い絵画というものは、作者が多くの努力と理念を貫きながら全身全霊を捧げて描いたものです。
人類が文明を持って以来育んできた文化の結晶ですね。
現代は多少のお金を用意すれば世界中の名作を直接観ることのできる幸福な時代です。
そんな偉大な資産を享受しないなんてもったいない!