「院展」は公募展の名称
日本画がお好きな方は「院展」という展覧会の名前を見聞きしたことがあるかと思います。
「院展」とは「公益財団法人 日本美術院」が運営する日本画の公募式展覧会の名称で、
同様の日本画公募展である「日展」「創画展」と並ぶ、国内で最大規模の展覧会です。
公募展ですから誰でも応募することができ、審査を受けて入選すると展覧会に陳列してもらえますし、
全国各地で開催される巡回展にも加えてもらえるのです。
院展はアマチュアからプロの画家まで幅広く出品しており、審査も厳しく簡単には入選や受賞ができないことから、
入選すれば実力を認めてもらえたということになります。
さらに、自分で多額の費用をかけて個展を開くよりずっと大勢の来場者に見てもらえることに加えて
図録にも作品がカラーで掲載されて記録に残るのですからメリットは大きいですよね。
さて、院展は年に2回開催されます。
9月から開かれる、いわゆる「秋の院展」が主展覧会であり、会場には150号ほどの大作が200点以上並びます。
このページのトップ画像は、毎年9月1日に開催される秋の院展の会場である、
上野の東京都美術館です。
それに対して「春の院展」は、当初試作展として始まっただけに出品作品のサイズも小さめで
(とはいえ1メートル角ほどの作品ではありますが)
秋の院展に比べると見ごたえという点ではおよばないかもしれませんが、
制作や搬入出の負担が軽いので、秋の院展に比べて応募者が若干多いようです。
春の院展は日本橋三越が展覧会場となっています。
さて、院展をご覧になる方によく尋ねられるのは、
「同人」とは何か?、「無鑑査」の意味は? などです。
会場をまわると作品の脇に画題や作者名などと共にそういった言葉が書かれた札が下がっています。
ここではそれらについてご説明しましょう。
まずは研究会員
院展に入選あるいは受賞などキャリアを重ねると院展の中での立場が変わってゆき、
それに応じた称号をもらうことができます。
春または秋の院展に初入選すると所定の手続きを経て「研究会員」という呼び名をもらうことができます。
その名の通り入選のキャリアも重ねておらず、
ようやく院展の名簿に名を連ねることができるようになったということですね。
かつてバブル経済の時代には、院展に入選した途端、
画商から声がかかって画廊デビューなどということも多くありました。
それも遠い昔の話になってしまいましたが。
入選できたら院友が目標に
秋の院展に(春はその数に入りません)3回入選すると「院友(いんゆう)」の呼称をもらうことができます。
だからどうかと言われると、実質的にはなにも変わらないのですが、
競争の激しい院展に3回入選するほどの力を持っていると認められるということでしょうか。
ひとつの目標として、初入選の次には院友を目指すのです。
だんだんハードルが上がって次は特待
さて、そこから先はさらに実力勝負の世界です。
入選するだけでもハードルが高いのですが、院友から先はただ入選を続けているだけではほとんど立場が変わりません。
秋の院展では最高賞である日本美術院賞と奨励賞という2種類の賞が用意されていますが、
日本美術院賞1回または奨励賞を4回受賞すると「特待(とくたい)」という立場になることができます。
あるいは全く受賞歴がなくとも秋の院展に20回入選することでも特待に推挙されますが、
いずれにしろ長い時間と努力と実力が求められるのです。
ちなみに私の院展の中での立場は、この特待になります。
招待は無条件で出品できる
その先は「招待(しょうたい)」というのが待っています。
秋の院展で日本美術院賞を2回受賞、もしくは同賞を1回と奨励賞10回の受賞で推挙されますが、
招待の立場になるとその名の通り、春の院展も秋の院展も審査を経ずに無条件で入選することができます。
いわゆる「無鑑査」ですね。
無鑑査はまた、ほかにも適用される規定があり、
受賞の内容によって次の展覧会で無鑑査をもらえたり、特待は順番で数年ごとに無鑑査が回ってきます。
いわばご褒美のようなものと思っていただければ間違いではないでしょう。
同人は審査する立場
さて、招待になると今度は「同人(どうにん)」になれるチャンスがめぐってきます。
毎年の現役同人の会議において、招待の中から推薦され、投票によって新たな同人が決められます。
それまで審査を受けていた立場と違って、同人になると今度は入選や賞の審査をする側に立つわけです。
また、同人は日本美術院を運営する構成員でもあり、
会議に出席して院展に関する事項を決定したり実行する責務が生じます。
もちろん院展には審査を受けずに出品できますし、それまで規定のサイズ以内で描かなければならなかった出品画も
自由なサイズで制作することができるようになります。
院展は公益財団法人であることから、同人には法人組織として必要な役職も与えられます。
理事長や理事、監事などがそうですね。
ただ絵を描いていれば良いわけでなく、同人には相応の義務が課せられているわけです。
次回のコラムでは院展の歴史に触れたいと思います。
※ このコラムで書かれている情報は2021年現在のものです。
院展の規約などは随時改正されることがあるのでご了承ください。