絵はじょうずに描けなくて良い と、以前のコラムで書きました。
そうはいってもひとたび絵筆を握ったら、多少はうまくなりたいと思うのが人情です。
日本画でも油彩画でも、それが空想画であっても写実画であっても、
作品を描く前にはどのような作品にしたいか、まずイメージをはっきりさせますね。
そしてそのイメージを画面に刻もうとするわけです。
ですから画力・・・画材を使って画面に絵を表すための技術がなければ
ドレミもわからずピアノに向かうようなものかもしれません。
ただし再三コラムでお話している通り、じょうずになる練習のために絵を描こうとするのは全くのナンセンスです。
それではいったい、じょうずに描けずとも楽しく描き続ける方法はあるのでしょうか。
私がお勧めする方法
まず100円ショップで最低限の画材を揃えましょう。
専門の画材店で揃えた値の張る画材を使ったほうがうまく描けると思うかもしれませんが、
まずは惜しみなく使うことのできるアイテムが良いのです。
買ってくるものは、小ぶりのスケッチブック(ハガキサイズ程度のもので、いつでも持ち歩けるようなもの)
それから鉛筆、消しゴム、色鉛筆セット です。
鉛筆は大変優れた画材です。軽いために手が疲れず、芯の寝かせ具合や扱い方によって幅広い表現ができます。
とはいっても芯を削るのが面倒なのであれば、
シャープペンシル(できるだけ芯の太いほうがお勧めですが)
あるいはサインペンやボールペンなどお好きな筆記用具を用いても構いません、
色鉛筆は、あまり多色のものだと描くときに迷ってしまうし嵩張るので、
とりあえず12〜24色でよいと思います。
足りない色は重ね塗りで結構まかなえるものです。
描き続ける中で色に過不足を感じるようでしたら、必要な色のものを1本ずつ買ってきて
入れ替えればよいです。
そしてここからが大切なポイント。
手を動かし、手で見る
その画材を常に持ち歩くこと。
心に留まったものや風景があったら、何も考えずにその場ですぐに描き始めるのです。
仕事に向かう途中で美しい形の雲を見かけるかもしれません。
道でかわいい子猫に出会うかもしれません。
食事に行ったらすてきな盛りつけの料理が出てくるかもしれません。
時間がなければ30秒でもよいですし、線1本引くだけでもオッケーです。
途中でやめても問題ありません。あとで思い出しながら描くこともアリです。
大切なことは、描こうとする気持ちで対象物に向かうことです。
そういう「覚悟」でものを見て、描き、自分の目と手を鍛えるのが目的です。
日本画家の杉山寧さんは「自分がよく見るために手を動かす」と話し、
同じく日本画家の高山辰雄さんは「手で見る」のだとおっしゃっていました。
私の師匠の松尾敏男先生は「矢立」を使い、筆と墨で写生をすることがありました。
間違えると直せない画材を使って描くことに「なぜですか?」と問うと、
「間違えると直せないから、よく見るようになるでしょう?」とおっしゃられたのです。
気負わず、気軽に、チャンスを逃さず
せっかく画材を持ち歩いているのに、今日は描くことができなかった・・・ などと後悔してはいけません。
描かなければいけないという義務を背負い込むのはもってのほかです。楽しむはずが苦痛になってしまいます。
面倒くさいと思うときは描く必要はありません。
描きたいと思う気持ちがあるときこそ自分の力量以上のものが引き出され、
その繰り返しが向上に繋がるからです。
だからこそ描きたいと思ったわずかなチャンスを逃さないように備えておくのです。
ときには想像で何かを描くのも楽しいでしょう。
頭に浮かんだものをどんどん描き留めることができれば立派なものです。
私は、美味しい料理をいただいたときに
あとで思い出しながら簡単に描きとめておくことがあります。楽しいですよ。
へたくそなのに誰かに見られたら恥ずかしいと思うならば、
決して誰にも見せてはいけません。秘密のスケッチブックですね。
そうするうちに、1枚、2枚と少しずつページが増えスケッチブックの冊数が増え、宝物となってゆきます。
気がついたときには描く力が身に付き、描くことがさらに楽しくなることでしょう。
始めたときのスケッチと比べてみれば、じょうずになったことは一目瞭然です。
明日からと言わず、今から始めてみませんか?