日本画に限らず、画家が絵を描く際にはまず写生をします。
簡潔な線で素早く何枚も描く人もいれば、1枚に時間をかけてじっくりと描く人もいます。
写生の必要性についてはあらためてコラムで書く予定ですが、
今回は写生からどのように本制作(タブロー)に移行するのかをお話いたしましょう。
絵は矩形(正方形や長方形)にくくられた画面です。
円形や不定形の画面に描かれた作品も稀に見かけますが、
それにしても、任意に設定されたひとつの形の範囲で描かれるものです。
ですから、その画面の形の中にどのように絵柄を配置してゆくか、
つまり「構図」というものは絵にとって最も重要な要素であり、
それをおざなりにしては描き手が表したいと目指す内容が充分に表現できません。
どんなに卓越した技巧で描いても、構図が悪ければダメなのです。
小下図やエスキース
作品を描く際に念を入れるなら、写生で描きとった内容をどの大きさの作品に描くか決め、
構図を決定するために「下図」を描きます。
その手法は人によってさまざまで、適当な大きさの枠をひいてその中に鉛筆やパステルなどでラフに描いて
自分のイメージを定着してゆく「エスキース」という方法をとる場合、
あるいは日本画の場合はさらにそこから、本制作の作品サイズの数分の1の画面を用意し、
岩絵の具を使って作品のひな形とでもいうべき絵を描いておくこともあります。
これらは「小下図」などと呼ばれ、大きな作品を描く準備としてはたいへん有効な手法です。
画面サイズや縦横比によっては写生の通りではうまくおさまらないことも多いですから、
写生をもとに描くとはいっても多少の変更を加えることがあります。
エスキースも小下図も、構図を練る作業としておこなわれるほか、色調を検討するためにも
何度も塗り直したり、何枚か描いてみることがあります。
面倒に思われるかもしれませんが、絵描きにとってはこの「画想を練る」段階が
とても楽しい時間なのです。
大下図
そこまでできてしまえば絵はほとんど完成したも同様で
(まだ本制作の画面は真っ白にもかかわらず)
その後は本制作の画面と同じサイズの紙に線描で「大下図」と呼ばれる下描きをし、
日本画用の紙を張っていよいよ本番の制作にとりかかれるわけです。
あとはひたすら時間との闘いで、自分の心の中の想いが表出した下図を指針にしながら
大きな画面に岩絵の具で表現してゆくのです。